新しいテクノロジーが実現する建築ビジュアライゼーションの未来

VR でのウォークスルーからクラウドを介したリアルタイムのビジュアライゼーションまで、最新のイノベーションが建築のレベルをどのように引き上げているのかを紹介します。

Image courtesy of Marraum Architects
新しいテクノロジーによって建築ビジュアライゼーションが変革され、かつてないほど効率的なワークフローが現実のものとなっています。リアルタイム レンダリング、クラウドベースのコラボレーション、仮想現実 (VR) などのイノベーションを活用すると、設計のレビュー プロセスを大幅にスピード アップさせてワークフローを変革し、建築家のビジョンを実現できるようになります。

設計のレビューに時間がかかり、スケジュールの遅れやコストの増大を招くことが、建築における重要な課題の 1 つとなっています。離れた場所にいる人とコミュニケーションをとり、コラボレーションする必要があるということも、大きな課題となっています。COVID-19 の流行により、この課題の重要性は高まっています。これまでは、設計をリモートで共有しようとすると、レガシーのコラボレーション プラットフォームによってスケールと忠実度が制限されていました。従来のオフライン レンダリング ソフトウェアを使うと、3D ビジュアライゼーションが完成した時点で、それに対して建築家ができることは決められてしまうという問題もありました。

新しいテクノロジーを使えば、こうした問題に対処できます。リアルタイム 3D ビジュアライゼーションは、最新のユーザー フレンドリーなインターフェイスにより、従来と比べてごくわずかの時間で作成できます。そして、Unreal Engine の Pixel Streaming は、高忠実度のコンテンツをリモートで共有するための標準の方法となりつつあります。VR を使うと、建築家は制作上の意図をクライアントに伝えやすくなります。また、リアルタイム エンジンはプラグインを介してほかのデザイン ツールと連携するため、建築家はリアルタイム ビジュアライゼーションのレベルを引き上げやすくなっており、より魅力的でイマーシブなものにできます。

建築家や建築ビジュアライゼーションの専門家の多くが、すでにこうしたテクノロジーを使って設計のレビューを効率化し、設計を強化しています。Jonathan Reeves Architects は設計を顧客に見せるためにリアルタイム 3D レンダリングを活用するようになっています。Zaha Hadid Architects (ZHA) はリアルタイム テクノロジーを活用してコンセプトについてのイテレーションを高速化し、コンセプトをクライアントに伝えています。建築ビジュアライゼーションの専門家として独立して活動している Paweł Rymsza 氏は、Pixel Streaming を使ってクライアントのためにイマーシブなエクスペリエンスを作成しています。Marraum Architects は VR ウォークスルーを活用して新規のビジネスを獲得しています。ここでは、新しいイノベーションによりもたらされる建築の未来について、いくつかの例を紹介します。イノベーションを活用することで、建築家はイテレーションを高速化し、設計を強化し、顧客満足度を向上させています。

ビジネスの課題

  • 設計のレビューは非常に時間のかかるプロセスです。関係者は各段階で設計を確認して修正を加える必要があります。コンセプトを視覚化したり、既存の設計に変更を加えたりするのは、関係者全員にとって常に容易であるとは限りません。その結果、意思決定に時間がかかり、予定から遅れたり、全体的なコストが増加したりする場合があります。
  • リモートでのコミュニケーションをクライアントとの間で行うことが、かつてないほど重要になっています。最近のパンデミックによってデジタル トランスフォーメーションが促進され、仮想空間でのコラボレーションがよく行われるようになりました。仮想空間での設計のレビュー プロセスに参加する全員が、対面でのミーティングに遜色ない形でコミュニケーションをとり、情報を共有できる必要があります。
  • スケールと忠実度の面で、設計を共有する際には、設計とコラボレーションの従来のツールによってこれまで厳しい制約が課されてきました。従来のプラットフォームの大半は、仮想的なコンテンツを共有するために WebGL ベースの方法に依存していますが、この方法ではビジュアライゼーションの品質を最高のものにすることはできません。
  • 従来のオフライン レンダリング ソフトウェアを使うと、建築家は 3D ビジュアライゼーションを作成できますが、多くのツールは事実上そこで行き止まりになります。建築家は長い時間をかけてディテールに富んだビジュアル レイヤーを作成できますが、あくまでも純粋なビジュアライゼーションであるため、そこからそれを活用して何かをすることはできません。

新しいテクノロジーによる問題解決

  • リアルタイム 3D ビジュアライゼーションは、今では以前よりもはるかに高速に作成できるようになっています。これは、従来のレンダリング ソフトウェアと比べてインターフェイスがユーザーフレンドリーであるためです。リアルタイム 3D ビジュアライゼーションを利用することで、レビューのプロセスを高速化し、建築家が設計にかける時間を増やすことができます。2021 Architectural Visualization Rendering Engine Survey によると、19.21% の建築家がすでに Twinmotion を使って 3D レンダリングを作成しています。リアルタイム レンダリング エンジンの領域では、Twinmotion の市場シェアが増加しています。2016 年は 1.8 % でしたが、2021 年には 19.21% に上昇しました。
  • Unreal Engine の Pixel Streaming テクノロジーは、WebGL ベースのコンテンツ共有方法に代わって使われることが増えています。このテクノロジーを使うことで、建築家は高忠実度のリアルタイム 3D ビジュアライゼーションをクラウドを使って大規模に共有できます。多くの建築事務所が、Pixel Streaming を活用する Twinmotion Cloud のプレゼンテーションを利用しています。これによって、リアルタイム テクノロジーを使って複雑なビジュアライゼーションを確実かつシームレスに提供し、設計にかかる時間を短縮するとともに承認プロセスを迅速に進められるようにしています。
  • 仮想現実 (VR) は建築家がビジョンを伝えるためのテクノロジーとして極めて有効であることが明らかになっています。クライアントやその他の関係者は、VR ヘッドセットを装着するだけで詳細な建築ビジュアライゼーションのイマーシブな VR ウォークスルーを体験できます。
  • リアルタイム エンジンの連携機能を利用して、建築家はリアルタイム ビジュアライゼーションをさらに活用できるようにしています。たとえば、Unreal Engine の Datasmith Twinmotion Importer プラグインを使うと、プロジェクトを Twinmotion で開始して、Epic の Unreal Engine で完成させることができます。Twinmotion の設計と Epic の強力なリアルタイム エンジンをつなげることにより、ビジュアライゼーションのレベルを引き上げ、カスタマイズしたユニークなディテールを加えることができます。また、モデルを別のユースケースに転用できる可能性も生まれます。動的なディテールを加えてビジュアライゼーションを強化できるようになったことは、メタバース向けのコンテンツ制作の普及に向けた重要なステップです。

成功事例

建築業界のリーダーの多くが、すでに最新のテクノロジーによるイノベーションを活用し、ワークフローを効率化しながらインパクトのあるビジュアライゼーションを作っています。ここでは、その先頭に立っている組織をいくつか紹介します。
Jonathan Reeves Architects
建築家が設計をクライアントに見せるためにリアルタイム 3D レンダリングを使うことが増えていますが、プロジェクト 1 つ 1 つのために高度な 3D ビジュアルを作成する時間があるとは限りません。イギリスに拠点を置く Jonathan Reeves Architects の創業者、Jonathan Reeves 氏は、以前の 3D レンダリングと比べると、所要時間を最大で 70% 短縮できるようになったと推定しています。「また 3D ビジュアライゼーションに時間を割けるようになったのは Twinmotion のおかげです。以前は時間がかかり過ぎていて、費用対効果が悪く採算が合いませんでした。Twinmotion を使うと時間を大幅に節約でき、また 3D に取り組むことができるようになりました」
Masterplan Image rendered in Twinmotion by Jonathan Reeves
また、Reeves 氏は、自身のプロジェクトにとって Twinmotion Cloud が非常に有効なツールであることに気がつきました。「Twinmotion Cloud のいいところは、クライアントとの間で楽しみを見出せることです。たとえば、クリスマスが近付いていたら、雪を降らせることができます。クライアントがそれを気に入ってくれれば、親密な関係を築くのに役立つでしょう。私は Twinmotion Cloud を PowerPoint の強化版と呼んでいます」
Masterplan Image rendered in Twinmotion by Jonathan Reeves
Zaha Hadid Architects (ZHA)
イギリスに本社を置く建築スタジオ Zaha Hadid Architects (ZHA) は、その特徴的な設計で世界中に知られています。ZHA はリアルタイム テクノロジーを活用してコンセプトについてのイテレーションをすばやく行い、コンセプトをクライアントに伝えています。ユーザー エクスペリエンスを重視し、空間を移動する人にとっての物の見え方を捉えようとしています。以前はレンダリングに時間がかかり過ぎていて、早い段階で行うことはできなかったので、プロセスの特定の段階でクライアントによるレビューを行うために、複雑なディテールを伴うシーンをレンダリングするだけでした。リアルタイム テクノロジーを使うことで、プロセスの早い段階から多くのディテールを加えることができるようになりました。ZHA のコンピュテーショナル デザイン グループのデザイナー、Cesar Fragachan 氏は次のように述べています。「Twinmotion を使うとイテレーションを行いやすくなり、内部レビュー用にでもすべてのアセットを追加できます」
Image courtesy of Computation and Design Group of Zaha Hadid Architects
この非破壊的なワークフローについては、Fragachan 氏は次のように述べています。「このワークフローは設計の改善につながりました。また、レビュー プロセスのイテレーションを高速化し、時間内でより多くのイテレーションを行うことができるようになりました。最近のプロジェクトでは、20 種類ほどのオプションについて 24 時間以内にレンダリングできました。これは以前には不可能だったことです」

リアルタイム テクノロジーは、ZHA が未来を見据えた設計を行うためにも役立っています。たとえば、Liberland の設計がその一例です。これは未来的な仮想都市で、暗号資産を基盤とする世界のネットワーキング ハブとして機能するよう設計されています。Fragachan 氏は次のように述べています。「私たちはメタバースをデジタル ツインの一種ととらえています。デジタルのエクスペリエンスに基づいてユーザーからフィードバックを取得し、そのフィードバックを活かして実際の建物をより良いものにしています。クライアントがどう反応し、メタバースでその空間をどう経験するかを確認するうえで、リアルタイム テクノロジーはとても役立っています」
Image courtesy of Computation and Design Group of Zaha Hadid Architects
Paweł Rymsza 氏
ポーランドに拠点を置き独立して活動する建築ビジュアライゼーションの専門家、Paweł Rymsza 氏は、建築業界のクライアントがプロモーションに使用する動画を作成しています。特に大規模な住宅プロジェクトに重点を置いています。Rymsza 氏は作品の質を向上させるための有効な手段として Twinmotion を活用しています。また、Twinmotion Cloud によって、高スペックの PC を必要とせずに、どこでも誰にでもプレゼンテーションを行いやすくなっています。イマーシブなエクスペリエンスによって、クライアントは空間を視覚化しやすくなっています。
Image courtesy of Paweł Rymsza
Rymsza 氏は次のように述べています。「Twinmotion Cloud はクライアントがプロジェクトのどこに何があるかを理解するための最善の方法です。動画でアニメーションを実行する場合、シーケンスの間に切れ目が生じるため、集合住宅のすべての部屋を 1 つずつ見せていっても、クライアントはレイアウトを完全には理解できない可能性があります。Twinmotion Cloud を使えば、クライアントは空間内を能動的に歩き回り、理解を深めることができます」

Rymsza 氏のクライアントは、静止画像と比較してのこうしたリアルタイム プレゼンテーションの可能性を示され、それを徐々に理解し始めています。今後はプロジェクトのためにクライアントから Twinmotion Cloud でのプレゼンテーションを標準でリクエストされることが増えるだろうと Rymsza 氏は確信しています。
Image courtesy of Paweł Rymsza
Marraum Architects
イングランド南岸に位置するコーンウォールに拠点を置く Marraum Architects は、約 6 年にわたって VR によるビジュアライゼーションに取り組んでいます。Marraum Architects がこのテクノロジーに関心を持つきっかけとなったのは、沿岸での特定の眺めを実現するために建築の設計をどのように調整したか、クライアントに伝えようとしたことでした。クライアントが設計の枠組みを視覚化できるようにするために、Marraum は基本的なビジュアルしか制作できないソフトウェア パッケージから始めて、その後 Twinmotion と VR ヘッドセットの組み合わせに移行しました。
Image courtesy of Marraum Architects
業務の大部分は個人のクライアント向けのリノベーションに関するものです。ライトやテクスチャなどのディテールを加えることができるため、リノベーションが空間にどう影響するか、設計のコンセプトを定める早期の段階でクライアントが感覚をつかめるようになっており、プロセスを円滑に進めることができています。

Marraum でディレクターを務める Adam Laskey 氏は次のように述べています。「空間についてできるだけ明確に理解してもらうために、クライアントには常に最善のものを届けようと努めています」

Marraum では VR のアプローチが標準となっており、これはすでにクライアントの獲得と維持に貢献しています。数年前、Marraum はリノベーションのプロジェクトについてあるクライアントと仕事をしました。そのプロジェクトでは、海岸沿いの物件が海のほうを向くように調整する作業が含まれました。物件が販売されたのちに、クライアントは夢の住宅を設計するために Marraum に連絡をとってきました。それは珍しい A-frame の設計を用いた現代的な住宅でした。「そのクライアントが私たちに再度連絡してくれた理由の 1 つは、以前に経験した VR エクスペリエンスでした」と Laskey 氏は述べています。
Image courtesy of Marraum Architects
Marraum が建築における次のステップを踏み出すうえで、VR が役立っていることは明らかです。クライアントは成果を視覚化でき、コンセプト設計のプロセスが合理化され、顧客満足度が向上しています。Laskey 氏は次のように述べています。「クライアントの投資を安全なものにすることが重要です。自分が何に対してイエスと言ったのかを確実に理解してもらいます。クライアントにそのような経験をしてもらうために、私たちはビジネスが成り立つ範囲でできるかぎりの手を尽くしています。現在標準となっている 2D の静止画像による図面と比べると、優位性は明らかです。クライアントは巨額の蓄えを費やすのですから、それに見合ったものを提供する必要があります」
 

ここでは、建築の分野における先進的なリーダーたちが設計のレビュー プロセスを変革するために最新のテクノロジーをどのように活用しているのか、いくつかの事例を紹介しました。リアルタイム テクノロジーから Pixel Streaming、VR まで、新しいイノベーションによって建築家はイテレーションを高速化し、設計を強化し、顧客満足度を向上させ、クライアントの獲得と維持につなげています。